はじめに
近年、「働き方改革」や「副業解禁」「フリーランス人口増加」といったキーワードをよく目にします。特にWEB制作・デザイン、SITE構築、システム開発などの分野では、正社員として企業に所属する働き方から、フリーランス(自営業・業務委託)として自由に案件を選ぶ働き方へのシフトも進んでいます。
しかし、「自由=いいこと」「フリーになると報酬が上がる」と安易に思って飛び込むと、思わぬ落とし穴も存在します。逆に「安定=いいこと」「正社員なら安心」と思っていても、自分の価値観やキャリア設計とズレている場合もあります。
そこで本稿では、**「報酬」「働き方」「将来設計」「リスク・責任」**という観点から、フリーランスと正社員それぞれの違いを整理し、メリット・デメリットを比較します。そして、どちらが“自分に合っているか”を判断するためのヒントも提示します。
2. 正社員とフリーランス、まず「立ち位置」の違い
まず、両者の働き方上の立ち位置や契約形態、法律的な違いを押さえておきましょう。
正社員(=企業に雇用される働き方)
- 企業と雇用契約を結び、定められた時間・場所・業務のもとで働く。
- 毎月定額の給与が支払われ、社会保険、雇用保険、年次有給休暇、福利厚生などが適用されることが一般的。
- 長期的なキャリアパス(昇進、配置転換、評価制度など)が用意されている企業も多い。
- 会社のルール・指揮命令系統・勤務時間の管理などがあることが多く、「会社所属の労働者」としての位置づけが法的にも明確です。
フリーランス(=自営業・業務委託契約で働く)
- 企業との雇用契約ではなく、業務委託契約(請負・委任)などで自らのスキルを提供する形。
- 自分で案件を探す・契約を結ぶ・報酬を交渉する・経費・税金を自己で管理するという側面があります。
- 働く時間・場所・案件を自分で選べる自由度が高い反面、会社が保障する安定性・福利厚生・収入の保証がないことも多い。
- 日本では、フリーランスを巡る法制度も整備が進んでおり、たとえば Freelance Act(「特定委託事業者に関する取引の適正化等に関する法律」)が 2024 年11 月から施行されるなど、フリーランス側の保護も徐々に強まっています。 Nippon+2ウィンストン・ストローン+2
- また、フリーランスか社員かの線引きについては、「指揮命令を受けているか」「専属的か」「報酬形態は給与か業務委託か」などで判定され、誤った分類(いわゆる偽装請負)には法的リスクがあります。 Ogletree+1
このように立ち位置が異なるため、報酬・働き方・リスク・将来設計において差が出てきます。以下、それぞれの観点で深掘りしていきます。
フリーランスから正社員に戻る理由を解説しております↓

3. 報酬・収入構造の違い
最も気になるテーマ、「報酬」について、正社員とフリーランスそれぞれの特徴を整理します。
正社員の報酬構造
- 毎月固定の給与+賞与があるケースが多い(企業・業界・職種による)。
- 残業手当、休日手当、通勤手当、扶養手当、住宅手当など福利厚生的な手当が付く場合もあります。
- 昇給・昇進により年々給与が増加していく制度を設けている企業もありますが、日本では「年功序列」「勤続年数」による昇給モデルが一定数残っています。
- 雇用が安定していれば、金融機関からローンを組みやすい・将来設計が立てやすいというメリットもあります。
フリーランスの報酬構造
- 案件単価×案件数=月収・年収というモデルが一般的。
- 固定報酬ではなく、案件ごと・契約ごとに報酬を交渉・契約するため、案件の獲得力・交渉力・スケジュール管理が収入に直結します。
- 自分で経費/税金を計算し控除できる点で、節税の余地があるケースもありますが、その分管理コスト・リスクもあります。
- 案件が途切れると収入がゼロになる可能性もあるため、「安定収入」という観点では不利な側面もあります。
- 前述のように、2024年施行の法制度によって、フリーランスにも一定の取引保護が進んでいますが(支払い遅延・契約条件明示など)まだ“社員のような”報酬保証/福利厚生は一般的ではありません。 Nippon+1
比較して見える主な違い
- 正社員は「安定収入」が期待できる反面、報酬の上限・自由度は制約されることが多い。
- フリーランスは「高収入のチャンス」が大きい反面、案件獲得/管理コスト/リスクを自分で負う必要がある。
- また、正社員は昇給・賞与・福利厚生という“付加価値”も含まれており、報酬のみで比較すると見えづらい価値がある。
- フリーランスでは、自分が何件こなせるか・単価をどれだけ上げられるか・継続案件をどれだけ抱えられるか、という “稼働+営業+スキル維持” が収入を左右する鍵。
フリーランスの税金やインボイスについてはこちらの記事↓

4. 働き方・自由度・責任の違い
報酬以外に、働き方・責任・キャリアとしての選択肢にも大きな差があります。
正社員の働き方・責任
メリット
- 勤務時間・勤務地・勤務条件が会社側で整備されていることが多く、ある種環境の安定があります。
- 会社が教育・研修・キャリア育成を用意しているケースもあり、スキルアップ支援・研修制度が整っていることがあります。
- 社会保険・雇用保険・退職金制度・有給休暇などの制度的なセーフティネットが比較的安定しています。
- デメリット
- 自由度(案件の選択、働く時間・場所など)は限られがちです。特に大企業・伝統的業界では勤務時間・出社・管理体制が厳しい場合があります。
- 昇進や昇給が年功序列ベースだったり、組織内政治・人間関係・体制適応が必要なことがあります。
- 自分の働きの「直接的な報酬反映」が見えにくいことがあり、成果を上げても給与がすぐには上がらないと感じる人もいます。
フリーランスの働き方・責任
メリット
- 働く時間・場所・案件を自分で選べる自由度が高い(在宅・リモート可・副業としても可能)。
- 自分のスキル・成果・営業力次第で大きく報酬を伸ばせる可能性があります。
- 自らのブランド/ポートフォリオを築けるため、キャリアの幅が広がることも。
デメリット - 収入が不安定になりやすく、案件が途切れると収入ゼロもあり得ます。
- 社会保険・雇用保険・休暇・有給・ボーナスなど「会社が用意する仕組み」が自分で管理・確保する必要があります。
- 自営業として確定申告・経費管理・営業活動・契約交渉・トラブル対応など「仕事+営業+経営的責任」がセットで求められます。
- 長時間・不規則時間・休日対応などになりがちで、「自由」という言葉の裏に“自律”と“自己管理”という負荷があります。
5. 将来設計・キャリアパス・リスク比較
報酬・働き方の違いが、将来設計・キャリアパス・リスクにも影響します。
正社員の将来設計・リスク
メリット
- 長期就業・定年まで会社に所属する「安定モデル」が日本では昔から一般的でした(ただし今は変化しています)。
- 住宅ローン・ローン借入・マイホーム取得など、収入が安定していれば有利です。
- 昇進・社内異動・部署経験など、多彩なキャリアパスがある企業もあります。
リスク - 会社の業績・経営方針・リストラ・配置転換など、会社リスクを被る可能性があります。
- “安定”であるがゆえに、変化に弱く、自分のスキルが古くなるリスク(専門性低下・新しい働き方への対応遅れ)があります。
- 昇給・昇進が期待よりもゆるやかだったり、思っていたキャリアと違う方向に流されることもあります。
フリーランスの将来設計・リスク
メリット
- 自分のスキル・ポートフォリオ・人脈を強化しながら、複数の収入源を持てる可能性があります。
- “時間・場所・案件”の自由を活かして、多様な働き方(海外在住・複業・リモート)も可能です。
リスク - 社会保険・年金・退職金といった“備え”を自分で準備する必要があります。
- 案件獲得・単価交渉・技術トレンド対応・働き続けるための体力・営業力維持が必須です。
- 収入が波あり/支払い遅延・契約条件不利・信用リスクなどがあるため、将来の計画(ローン・マイホーム・子育て資金など)を立てづらいことがあります。
- 長期的に見たとき、“フリーランスとして何歳まで働くか”“会社員に戻るか・独立し続けるか”という選択が必要になることもあります。
6. メリット・デメリット整理(比較表)
以下に、正社員とフリーランスそれぞれのメリット・デメリットを整理します。
| 働き方 | 主なメリット | 主なデメリット |
|---|---|---|
| 正社員 | ・収入が安定/社会的信用あり ・福利厚生・保険・休暇制度が整備されていることが多い ・キャリアパスがある程度見える | ・働き方の自由度が低め ・報酬上昇のスピードが緩やかなことも ・会社の方針変化・リストラ・変化対応のリスクあり |
| フリーランス | ・働く時間・場所・案件を選びやすい ・自分の成果・スキル・営業力次第で収入を大きく伸ばせる可能性あり ・キャリア設計を自分で作りやすい | ・収入・案件の不安定性あり ・保険・年金・休暇・福利厚生を自分で確保する必要あり ・営業・確定申告・トラブル対応など“裏方”の仕事も増える |
7. フリーランスを選ぶ/正社員を選ぶときのポイント
どちらが“良い”というわけではなく、自分の価値観・ライフスタイル・キャリア観・リスク許容度によって選び方が変わります。以下の“チェック項目”を参考に、自分に合った働き方を探してみてください。
チェック項目
- 自分は「安定」を重視するか、「自由/挑戦」を重視するか?
- 自分のスキルや実績は、フリーランスとして案件を獲得できるレベルにあるか?
- 仕事以外にどれだけ時間を使いたいか?(家族・趣味・副業・育児など)
- 収入のばらつき・営業活動・確定申告・保険・年金など、自分で管理できるリソースはあるか?
- 将来(5年・10年・20年後)を見据えたとき、どこまで自分でコントロールしたいか?また、変化に強い働き方か?
- リスクが発生したときの“備え”(貯金・保険・人脈・案件ストック)はあるか?
- 正社員として入る会社の“文化・働き方・成長環境”“評価制度・昇給制度”が自分に合っているか?
- フリーランスとして働くなら、「案件源」「単価」「継続契約」「時間管理」「自己研鑽」が戦略として整っているか?
選ぶ時のヒント
- 初めてフリーランスに挑戦するなら、まず副業・複業として少しずつ経験を積むのも一つの方法です。
- 正社員で働きながら、自分でも案件を少しずつ受けて「フリーランスとしての感覚」を掴むというキャリアパスもあります。
- 将来的には「どちらでも働ける力(スキル・営業力・人脈)」をつけておくと、選択肢を広げられます。
- 働き方や社会制度(保険・年金・ライフプラン)について、専門家(税理士・社会保険労務士など)に相談しておくことも安心です。
8. 日本の法制度・社会環境から見る働き方の変化
日本では、正社員モデルが長らく主流でしたが、近年フリーランス/業務委託という働き方が増えています。例えば、Japan Freelance Associationの調査では、フリーランス人口が2015〜2021年の間に急増しており、働き方の多様化が進んでいます。 apcoworldwide.com
また、2024年11月施行予定の「特定委託事業者に関する取引の適正化等に関する法律(Freelance Act)」では、フリーランスとの取引において「契約条件の明示」「支払い遅延の禁止」「ハラスメント防止」などが義務化され、フリーランス側の保護が強化されました。 Nippon+1
このような社会的・制度的変化を背景に、自分の働き方・契約形態を見直すのもおすすめです。
9. ケーススタディ:制作・デザイン業界での比較
特に Web 制作・デザイン・EC(例えば Shopify 案件など)で働く場合を想定して、正社員/フリーランスそれぞれの典型的パターンを見てみましょう。
正社員の場合
例:Web制作会社に正社員として入社。月給30万円、賞与年2回、年収約450万円。
- メリット:安定した給与、福利厚生完備、チーム体制・案件が用意されており、自分のデザイン/コーディングスキルを磨ける。
- デメリット:案件の選択権が少ない、忙しい時期は残業・休日出勤あり、単価アップなどを自分の力でコントロールしづらい。
フリーランスの場合
例:個人として業務委託契約で案件を受注。月4件、1件あたり報酬25万円、月収100万円。年収1200万円(ただし経費・税・営業時間含む)。
- メリット:高単価の案件を直接受注できれば短期間で報酬を大きく伸ばせる。好きな時間・場所で働ける。
- デメリット:案件が途切れた月は収入激減。営業・契約・請求・確定申告・保険等を自分で管理。クライアントとの折衝や支払い遅延リスクも。さらに、将来どう働き続けるかを自分で設計する必要あり。
こうした実例をもとに、「自分のスキル・営業力・リスク許容度」を冷静に見極めることが大切です。
10. まとめ:自分に合った働き方を設計しよう
「フリーランスか正社員か」という選択は、単純に“収入が高い方”を選べばいいわけではありません。重要なのは、**「自分がどう働きたいか」「どのような生活・キャリアを送りたいか」「そのためのリスクと責任を負えるか」**を見定めることです。
- 正社員は「安定」「制度あり」「会社でキャリア構築」という選択肢。
- フリーランスは「自由」「自分次第で報酬アップ」「自分でキャリア設計」という選択肢。
そしてどちらにせよ、働き方における「自分の価値を高める」「変化に対応する」「選択肢を持っておく」ことが、これからの時代にはますます重要です。
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